高齢者とリハビリテーション・高齢者を取り巻く状況とリハビリの形

日本社会の高齢化に伴い、リハビリテーションの役割にも変化が起きています。これまで、本来の機能を取り戻し、社会復帰するための訓練だったリハビリは、高齢者の増加、そして障害者の高齢化という時代を迎え、今後の在り方が注目されています。この記事では、高齢者を取り巻く状況とリハビリテーションの形についてご紹介していきます。

高齢者とリハビリテーション

日本では、少子高齢化が進んでいることはご存じの通りです。2025年には、団塊の世代が75歳以上になり、医療や生活支援などにおいて、包括的なサービスの必要性が増しています。現在、健康な生活を送っている人たちでも、高齢化により、なんらかの障害を持ちやすくなります。また高齢化は、現在すでに障害を持っている方が高齢化するという課題もはらんでいます。高齢者のリハビリテーションは、落ち着きがちな日常生活を活発なものにし、社会への参加を促進することで、個々の生きがいを見つける手助けとなります。高齢者のためのリハビリテーションには、心身機能、活動、参加というこれまでのリハビリテーションの要素に、地域的な新しい要素をバランスよく加え、再編することが求められています。

高齢者を取り巻く状況

65歳以上の高齢者の数は、2025年には約3600万人に達すると考えられています。2042年には、約3800万人となり、中でも75歳以上の後期高齢者数は、日本の全人口の1/4を超えると予想されています。後期高齢者は、医療や介護の必要性が格段に増しますが、後期高齢者数の増加率はどの地域でも同じわけではなく、たとえば大都市での増加率は高く、地方では増加率は低くなります。これは市町村など、自治体がおかれる状況により、対応が異なることを意味します。

介護保険の状況

介護保険の被保険者数は、2019年5月の段階で、全国で3500万人を超えています。介護保険制度のスタートからすでに20年近い年月が経過していますが、国民の高齢化に伴い、その重要性は増し続けています。(参考:介護保険事業状況報告https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/m19/xls/1905-h1.xls)

また、要介護認定者数も、同じく2019年5月の段階で650万人を超えています。増加は主に軽度の要介護者が増えたことによるものですが、今後も要介護認定者の数が増え続けることは間違いありません。(参考:介護保険事業状況報告https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/m19/xls/1905-h2-1.xls)

生活機能分類によるリハビリテーション

要介護認定者の数を増やさない、もしくは介護の必要な状態を軽くするためには、介護予防の考え方が役立ちます。これまで行われてきた身体機能の改善だけではなく、そのリハビリテーションの考え方に加えて、普段の生活や、社会での役割をこなしてもらうための訓練が高齢者には望まれます。

生活機能は、国際生活機能分類(ICF)という、世界保健機関が2001年に採択した、障害を包括的、中立的に判断することを目指す医療基準です。生きるために必要な機能を「生活機能」と考え、生活機能を構成する「活動」「心身機能」「参加」の要素が相互に影響し合うことにより、障害を持つ人の自立をアシストするという考え方です。

これまで介護予防としてのリハビリテーションは、機能回復を目標とする訓練に偏重しがちでした。リハビリテーションにより「心身」の状態が活発化しても、「活動」や「参加」にはあまり活かされてこなかったのです。これからの介護予防としてのリハビリテーションは、高齢者を取り巻く環境作りが大切になってきます。高齢者数の増加も地域により傾向が異なるため、地域ごとに高齢者の活躍できる環境や居場所を作ることで、生活に張りを持ってもらう。そんなリハビリが求められています。

サービスとしてのリハビリテーション

高齢者のためのリハビリテーションは、現在、さまざまなサービスを通じて行われています。介護保険では、介護老人保健施設などで行う施設サービスと、デイケアなどの通所タイプのリハビリテーション、訪問リハビリテーションなどが行われています。

施設でのリハビリテーション

介護老人保健施設や、介護療養型医療施設にて提供されているリハビリテーションです。介護老人保健施設では、要介護高齢者が自宅に復帰することを目的にしています。介護老人保健施設では、医師が管理する下で介護が提供され、作業療法士、理学療法士などのスタッフが、個々の患者のためのメニューに従いリハビリテーションを進めていきます。基本的には、入所から3ヶ月~半年で出所し、自宅に戻ることが目標ですが、受け入れる家族の体制が万全でない場合や、回復具合が思わしくない場合など、目標どおりにいかないことも多いようです。公的施設なので、比較的リーズナブルな利用料金と充実した医療、そしてリハビリの内容も充実していることが魅力ですが、入所期間は限定的です。また、民間施設のような個室は少なく、相部屋になることが多いようです。

介護療養型医療施設は、介護老人保健施設に入所する要介護者よりも重度の障害を持つ介護者へのリハビリを提供しています。受け入れ体制も医療法人が運営していることから良好で、当然ながら医療処置も行います。リハビリ内容も充実していることが多く、比較的リーズナブルな料金で利用が可能ですが、反面、人気が高いため入居すること自体が難しいというデメリットがあります。また、介護老人保健施設同様、個室は少ないようです。

居宅リハビリテーション

居宅サービスとしてのリハビリテーションには、通所型と訪問型があります。

通所型リハビリテーションは、デイケアとも呼ばれているサービスで、通常は自宅で生活している要介護者が、さらに自立するためにサポートしてくれます。通所型リハビリテーションサービスを提供しているのは、病院や診療所、老人保健施設などです。通所型のサービスを提供している施設では、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの専門家による機能回復訓練が行われています。

訪問型リハビリテーションは、医師の判断により、理学療法士などの専門家が自宅を訪問してサービスを提供します。訪問型リハビリテーションの対象になるのは要介護1以上の高齢者です。訪問リハビリテーションは、個別で訓練を受けられる、普段の生活に合わせたサービスを受けられるなどのメリットがありますが、最先端の機器を使った訓練などは行うことができません。また、食事などのサービス内容も受けられません。当初の訪問型リハビリテーションは、寝たきりになることを防ぐことに注力する傾向がありましたが、現在はやはり社会への参加を目標とすることにシフトしています。

高齢者とリハビリテーション・まとめ

21世紀に入るまでのリハビリテーションは、病気や事故などにより失われた機能を、本来持っていた状態に回復させることを目的としていました。しかし、現在のリハビリテーションは、特に高齢化社会におけるリハビリテーションは、単純に機能回復を目標にするのではなく、人間らしく、自分らしく生活することを支援することを指します。現在、リハビリテーションの現場では、機能を回復するための訓練だけではなく、食事、入浴、ゲームなど、さまざまなメニューを導入することで高齢者や障害者の支援を行っています。高齢化社会におけるリハビリテーションは、医師や理学療法士、看護師などの医療と、当事者を取り巻く家族や環境、社会福祉などが一体となって行い、活躍できる環境を用意することが大切なのです。